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2017-10-08

【なぜ、フリーペーパーなの?】 #4 花椿

独特の世界観と美しいグラフィックで圧倒的な存在感を放つ資生堂のフリーペーパー、『花椿』。四季折々さまざまな表情を見せる本誌に虜になったファンも多いはず。今回は、先日発行された秋号まで編集長を務められた樋口昌樹さんにお話を伺いました。

—今回のインタビューの主旨は、「なぜ今フリーペーパーを作るのか」を紐解くというものですが、『花椿』をフリーペーパーとして発行している理由を教えて下さい。

 

樋口:『花椿』は今年創刊80周年なんですね。その前に『資生堂グラフ』っていう時代があって、次に『資生堂月報』になって。『資生堂月報』の創刊が1924年だったので、そこから数えると90年以上もあるメディアなんですよ。ですから、なぜフリーペーパーかっていうよりも、『花椿』は紙の媒体だというのが前提になっています。創刊した時代には紙媒体しかありませんから。もともと『花椿』というのは、資生堂化粧品の愛用者組織である花椿会の会報誌でした。この組織が出来たので、名前もグラフから花椿に変えてずっと続いている。一番発行部数が多かった時は60年代の後半で、その頃は680万部出ていましたね。ほとんどのご家庭に一冊あるみたいな、そういう時代もありました。それから70年代になると、『an・an』や『non-no』が創刊されて、女性誌ブームが来て。メディアの数も増えるし、そういう中でだんだん発行部数も減っていって、2012年には3万部を切りました。

今、資生堂という会社のヘビーユーザーは50代や60代くらいで、若いみなさんのような10代から20代くらいの人にはあんまり売れていない。このままどんどん年齢が上がっていって、今の20代の人たちが40、50代になった時に、資生堂はどうなってしまうんだ、っていう危機感を持っているわけです。もっと若い人たちに資生堂を支持してもらわないと、会社の将来が無い。ではどこで資生堂とコミットするかっていうと、『花椿』でまず資生堂と出会ってもらって、資生堂ってこんなこともやっているんだ、と思ってもらえるような、若者たちとの接点として使っていかなければならない。そうなると、デジタルメディアでファーストコンタクトをしないとダメだよね。だからデジタルを強化しています。でも、紙は紙としての良さが絶対にあるわけですよ。デジタルメディアで表現出来ない、モノとしての手触り感とか。紙媒体はフィジカルに1ページずつ見ていくわけですしね。デジタルメディアはどこまで見たら終わりなのか、全体感が全くないじゃないですか。でも紙っていうのは単純に持った瞬間、大体このくらいの量なのか、パラパラみたら、大体こんな内容なのかってすぐ掴める。そして何度でも見たい時にパラパラめくれる。だから、知ってもらうためにはウェブ媒体が優れているけれど、保存性は紙の方が向いている訳で。こういう時代だから紙をやめてデジタルメディアにしようとか、頑なに紙だけやるとかではなくて、双方のメディアの良さを組み合わせて、二つで一つの花椿です、といった考え方をしようと思いました。

そうなると、僕は今の時代に月刊というスピードは中途半端だと感じていて。デジタルの世界では秒単位で更新されていく。そういうスピード感に対して、月刊はすごく中途半端だなと。でも日本には四季がはっきりあって、人間の生活サイクルのリズムがあるわけですよね。そんなときに季刊誌が季節の贈り物として届くっていうのが、紙のメディアの在り方としてすごくいいなと思いました。

 

—紙媒体とデジタルの両方を扱うにあたって、コンテンツの区別はしていますか?

 

樋口:ウェブは2016年の6月に全面リニューアルしましたが、その当時はウェブファーストという考え方をしていて、ウェブに出したコンテンツをさらに深掘りして紙に持ってくることができると思っていました。

ウェブを立ち上げた当時は10のコンテンツがあったのですが、三段階くらいの階層に分けてパッと見て楽しめるようにしました。例えば、はじめに洋楽コンテンツとか動画コンテンツとか、あるいはちょうど連載が終わって新しく始まる漫画とか、ライトウェイトなコンテンツを。僕はこれを昼のランチって呼んでいたのですけど、その次にもう少しちゃんと読むコンテンツがあって、最後にもっとじっくり読むコンテンツがあって、漫画とか動画で目にとまった人が次の階層に入ってもらって、いくつものコンテンツに行ってもらうような、そういう構造を考えていましたね。ランチメニューから夜の懐石料理に、みたいな。ところが実際ウェブを立ち上げて見ると、全然そういう見られ方をしない。紙の雑誌のようにパラパラみてこれ面白いって読んで、次これを読むっていうやり方をされていなくて。考えてみれば当たり前なんだけど、ピンポイントで入ってきてピンポイントで離脱しちゃうんですよね。漫画だったらその漫画のファンが入ってきて、もう一個くらい見て出ていく。雑誌のように全部を見ることはほぼない。雑誌は台割で頭を悩ませますがウェブは台割もない。階層には意味がなくて、一個一個が面白いか面白くないかの勝負。1か0の勝負なんですね。だから、そこから紙に流用しようとしても違うものになります。紙は紙でウェブはウェブで考え直さなきゃ行けないなと思いました。紙発想でウェブを見ていたので、ウェブはウェブ発想で見て、頭を切り替えてメディアを作らないとならない。雑誌社ではウェブと紙でスタッフを分けるんだけど、うちは人数が少ないので全員が両方を担当しています。大変だけど両方の思考回路を身につけられると思います。過渡期だけどウェブも変えてくし、徐々に住み分けをできたらと思っています。

 

 

“本質的なものというか、時代が来ても色あせないもの”

 

—ターゲット層を絞る上で軸にしていることは?

 

樋口:今流行ってる情報じゃなくて、本質的なものというか、時代が来ても色あせないものという言い方をしているんですけど、本当にいいものを知ってもらうということに重きを置いています。ピンクが流行ってます、ではなくて、なぜピンクなのか、昔も流行ってた時代もあったけどなぜなのか、ピンクってこういうものだよね、とか本質的なことが伝わるような中身にしようって。でも上から目線で押し付けがましくならないように、年上の先輩、憧れの部活の先輩みたいな、あの人のいうことだったら聞いてみたくなる、そんな存在になろうって言ってましたね。

 

—制作していて印象的だったことは?

 

樋口:リニューアルするという使命を背負って(新編集長として)来たので、今までやってきたメンバーは抵抗するし、会社からはこのままではダメだといわれるし、そこをどう説得するかが大変でした。

 

—やはりどうしてもなくしたくないという思いがあったんでしょうか?

 

樋口:メディアって一回なくなったら復活させるのすごい難しいから。月刊誌はなくすと言ったけど紙をなくしたいとは思わないので。紙が今の時代にどう残れるのかって考えたときにデジタルと季刊誌、そういう形ができたらと思っています。

 

 

“最高のものを作ることを失わないように“

 

—メディアを作る上で必要なことは何だとお考えですか?

 

樋口:やっぱりクオリティーを落とさないことですね。予算の制限はあるけれど、このレベルでいいやという思いで作るとクオリティーが下がる。デザインもそうだけど、記事の内容とか書き手とか。自分で書く場合でも、最高のものを作るという気持ちを失わないようにしてほしいですね。

 

—花椿は独特な文の書き方で、取り上げるものも普通の雑誌とは違いますよね。それは意識して書いているのですか?

 

樋口:とんがっている方に重きをおくと一部の熱狂的なファンはつくけど、一般受けはしない。リニューアルの大きなポイントとして、中身をもっとみんなに共感してもらえるものにしようということを何度も言いました。昔は自己満足の世界で、わかる人だけわかってくれればいいや、という感じでしたがそれではもう通用しない。もっと多くの人に親しまれるよう、クオリティーを落とさずに届ける。読み手を想定してどんなものを欲してるのか、まだまだ気づいてないけどこんなものもあったんだよね、というインサーティブなところを行くとか、常に読み手を想定して、企画立てないとダメだよねって何度も編集スタッフに言いましたね。

 

“出資者に喜ばれるものにすることが大事”

 

—学生フリーペーパー制作団体にメッセージを頂けますか?

 

樋口:『花椿』は全部会社のお金でつくっていますが、普通の商業誌は広告収入を得ていますよね。広告がないと成り立たない。フリーペーパーも同じですよね。商業誌の編集長が一番頭を悩ますのは台割なんです。広告をどこに挟むかっていう。このブランドとあのブランドはバッティングさせちゃいけないとか。お金を出してくれている以上、読者も大事だけどスポンサーも大事。フリーペーパーの制作者はあまりそういうスポンサーの意識がないんじゃないかな。お店がカンパしてくれる、そこからお金をもらうことに対して、その分何が返せるかっていうことを考えないと。多分学生のフリーペーパー団体はそこが欠落していると思う。実はフリーペーパーを作っていく上でそこは大事なポイントなので。自分たちの手弁当で作ってるなら自由だけどね(笑)。人様のお金をもらう以上は、出資者に喜ばれるものにすることが大事です。お金くれるなら誰でもいい、ではなくて、自分たちの出したいものと合っているところへ行って、いい関係にしないと。そこはもっと意識した方がいいんじゃないかな。

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